隠された彼の素顔

 違う。彼じゃない。彼は緑川さんだ。

 緑川さんは客席に向かって、軽く頭を下げた。

「すみません! 普通の顔で。たぶんあの写真は、奇跡的にイケメンに撮れたんだと思います」

 最後は茶目っ気たっぷりに言ってのけ、レッドの決めポーズまで取るサービスぶり。

 緑川さんの告白にシャッターは切られるが、お客はパラパラと帰っていく。
 
 帰っていくお客の中から、噂話が漏れ聞こえた。

「なんか、次回作の話題作りって話、聞いたよ」

「あ、私も聞いたー。次のレッド役の俳優さんなんでしょ?」

「なんだ。それでイケメンが写ってたのか」

 あれだけ集まっていた群衆は、散り散りに帰っていく。最後に緑川さんは頭をかいて、控え室に歩いていった。

 緑川さんも、レッドに大差なく背が高い。

 ただ、レッドの顔立ちが整い過ぎているのだ。次回作の俳優じゃないかという噂に、みんなが納得するくらいに。

 レッドと一緒に残っていたほかのメンバーも、控え室の方に足を向ける。

 私は意を決して、歩み寄った。
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