身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 彼女との時間は、温かい陽だまりのようなものだった。

 それがふと消えて、冷えた空虚な感覚に襲われた。

 今まで何もないのが普通だったのに、知ってしまった幸せは大きすぎて、何にも代えられなくて。

 あれから三年。

 今も彼女を想い続けている。
 どうすることもできないのに、想いは一向に変わらない。

 両親や親族から舞い込む縁談にも一切見向きもせず、ほとほと呆れられているに違いない。でも、このままずっと独り身でいるのだろうと自分の人生を予想する。

 カンファレンスルームへ向かう途中、窓から見える中庭の一角で笹原がひとりスマートフォンを手に立ち止まっている姿が目に入った。

 自然と足がそちらに向かって行く。

 近づいていくにつれ、スマートフォンの画面を見つめる表情が緩んでいるのがわかった。

 きっと、新婚ほやほやの奥さんとの連絡だろう。

 俺が近づいてきたのに気づいた笹原は軽く頭を下げる。

 相手と目が合ってやっと、何も考えずにここまで来ていたとに内心ハッとした。

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