身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 直接一緒に働く機会のない彼女のことは、入院病棟周辺でよく見かけていた。

 きびきびといつもよく動き、小柄な体で重い荷物や患者の介助を行っている。それがいつも晴れやかな表情で、患者にはどんなときも優しい笑顔を見せていた。

 そんな彼女を院外で見かけたときは、柄にもなく心が躍った。

 彼女はひとり、公園の片隅で絵を描いていた。こんな風にあの絵が描かれているのかと思いながら、その日はもちろん声をかけることはできなかった。

 話をする絶好のチャンスを逃し、あとあと後悔した俺は、彼女を見かけた公園をランニングのコースに組み込むことにした。

 また見かけることがあるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて彼女の姿を探した。

 しかし、二度目に彼女を見かけるまでに一カ月以上の月日が流れた。

 たまたま彼女が公園を訪れた日に走らなかったのかもしれない。

 それとも、彼女が久しぶりに公園を訪れたのかもしれない。

 何か正解かもわからない、〝かもしれない〟という予想と想像の世界で、公園で彼女をたまに見かけ、声はかけられないという月日を送った。

 だからつい、この間の土曜の朝の一件がラッキーだったなんて言ってしまった。

 彼女にとってみれば、見知らぬ男たちに絡まれた怖い出来事だったかもしれないのに。

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