身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 彼女の存在を知ったのは、一枚の絵はがきから。

 担当する患者のベッドに、丸くなって眠るトラ猫が描かれた絵はがきが飾ってあるのが回診の際目に留まった。

 暖色で描かれているその絵はがきは、なんとも温かみのあるものだった。

 猫もどこかほんわかしていて愛らしく、どんな人が描いたのだろうと無意識に思っていた。

 俺の視線が奪われていることに気づいた患者は、『これ、素敵でしょ、先生』と声をかけてきた。


『佐田さんがね、描いてくれたの。いつもニコニコしてる、彼女みたいなあったかい絵』


 まだ彼女が働き始めて半年経つか経たないかほどだったと記憶している。

 その猫の絵から始まり、多数の病室で絵を目に留めることが増えていった。

 それは決まって絵ハガキサイズで、風景や動物が描かれている。

 絵を見かけるたび、いつの間にか彼女自身のことも目で追うようになっていたのは自然な流れだった。

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