身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
姿を見た途端、心臓がどきんと跳ね上がる。
でも、昨日会ったときとは明らかに違う音を立てている。
ただ嬉しくて、ときめいて、心が弾んだあの音ではない。
私の姿に気づいた水瀬先生は、車を降車し私の元へ歩み寄る。
ぺこりと頭を下げると、「乗って」と背を押され助手席に促された。
「すみません、お待たせして」
「いや、俺も今降りてきたところだから。お疲れ様」
「お疲れ様です」
運転席に顔を向けて言葉が交わせない。膝の上の手荷物をもじもじ触りながら、この不穏な心臓の音を誤魔化す。
こんな状態で、水瀬先生とこのあとの時間まともに過ごせるのだろうか。
悶々としているうち、車はどこかの地下駐車場へと入っていく。
車を停めると、水瀬先生は私を助手席から降ろしてくれた。
到着したのは、病院からさほど離れていないどこかの高層ビル。
地下から一度一階へエレベーターで上がり、同じエレベーターホールから高層階へ上がるエレベーターに乗り換える。
となりにいる水瀬先生は、エレベーターの乗り降りなどのワンアクションのたび、私の背中に優しく触れて誘導してくれる。
そのたびにそわそわして、ずきずきして、地面の一点を見つめてしまう。
本当だったら、きゅんとしたり、ドキドキしているはずだったのに。