モナムール
「ねぇねぇ、マスターの好きなカクテルってなぁに?」
モヤモヤは消えないものの、その質問が少し気になってしまってスマートフォンを見つめながら耳だけ傾ける。
「好きなカクテル……そうですね。最近ラスティネイルが好きですよ」
それを聞いて、思わず顔を上げて廻くんに視線を向けた。
「ラス……?初めて聞いた。どんなの?」
「スコッチというウイスキーにドランブイという甘いリキュールを混ぜたカクテルです。甘くておいしいんですけどね、度数が高いので飲み過ぎ注意なんです。だからお酒が弱い方にはあまりおすすめできません」
「へぇー、そうなんだ」
……それ、私がこの間廻くんに選んだカクテル。
「大切な人に選んでもらったので、とても気に入っているんです」
"大切な人"
それは、私?そう自惚れてもいいのだろうか。
女性たちに向けられていた視線が私を捉えた時。
今度は逸らすことができなくて、数秒見つめ合う。
「ねぇマスター」
呼ばれて視線が離れて行った時、ホッとしたのと同時に、それが寂しいと思った。
じっと廻くんを見つめているうちにだんだん眠くなってきて。
ここで寝たら廻くんに迷惑かけるから、その前に帰らなきゃ。そう思うのに。
身体は動かなくて、瞼が重くなっていく。
「……めぐるくん」
呟いた声は、誰にも拾われることはなかった。