モナムール



「ねぇねぇ、マスターの好きなカクテルってなぁに?」



モヤモヤは消えないものの、その質問が少し気になってしまってスマートフォンを見つめながら耳だけ傾ける。



「好きなカクテル……そうですね。最近ラスティネイルが好きですよ」



それを聞いて、思わず顔を上げて廻くんに視線を向けた。



「ラス……?初めて聞いた。どんなの?」


「スコッチというウイスキーにドランブイという甘いリキュールを混ぜたカクテルです。甘くておいしいんですけどね、度数が高いので飲み過ぎ注意なんです。だからお酒が弱い方にはあまりおすすめできません」


「へぇー、そうなんだ」



……それ、私がこの間廻くんに選んだカクテル。



「大切な人に選んでもらったので、とても気に入っているんです」



"大切な人"



それは、私?そう自惚れてもいいのだろうか。


女性たちに向けられていた視線が私を捉えた時。


今度は逸らすことができなくて、数秒見つめ合う。



「ねぇマスター」



呼ばれて視線が離れて行った時、ホッとしたのと同時に、それが寂しいと思った。


じっと廻くんを見つめているうちにだんだん眠くなってきて。


ここで寝たら廻くんに迷惑かけるから、その前に帰らなきゃ。そう思うのに。


身体は動かなくて、瞼が重くなっていく。



「……めぐるくん」



呟いた声は、誰にも拾われることはなかった。


< 26 / 36 >

この作品をシェア

pagetop