どうにもこうにも~恋人編~
 西島さんのマンションに戻り、夕食を作る気にもなれずソファに体育座りをして、静まり返った部屋でひとり考えていた。

元恋人の篠原さんは、私なんかよりずっときれいで大人な女性だ。そんなきれいな人と西島さんは付き合っていたという事実だけで劣等感と嫉妬で胸の中が渦を巻く。篠原さんは寄りを戻したいわけではないようだが、それが本心なのかは定かではない。

彼女と話していたときには湧き上がらなかった黒い感情が、今になって顔を出してくる。


 篠原麗香。過去に西島さんが愛した人。そして傷つけられた人。


 間もなくして彼が帰宅してきた。

「おかえりなさい」

「ただいま。どうしたんだい?料理も途中だし」

「さっき、西島さんの元カノさんに会いました。篠原麗香さん。西島さんに返したいものがあったそうですけど、また今度来るって行ってました。どうしても直接渡したいらしくて」

「麗香が?」

 西島さんも、あの人のことを下の名前で呼ぶんだ。

「篠原さんも、西島さんのこと啓之って呼んでました」

 元カノなわけで、親密な関係だったからだと思うのだが、なんだか胸のあたりがざわざわとして黒い靄がかかる。

胸の中で濃くなっていく醜い嫉妬心。

私が知らない西島さんの過去。

かつては特別な関係にあった相手。

その人のことをどんなふうに愛していたの?

過去をひっくるめて彼を愛したいのに、ドロドロとした嫉妬で私の心は醜く汚れていく。

両目にたまる涙は一度の瞬きでこぼれ落ちそうだ。
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