儚く甘い

そこには隆文の膝の上で眠っているみわがいた。
体には裕介のジャケットを着ている。

みわを連れて行かないでほしいと、願っている3人が、一番強く痛いくらいに願う日。

毎年この日は、春を感じる天気で、温かく優しい風が吹いている。
子どもたちも同じように、父の姿を思い出すのだった。

「お待たせ」
母の声に隆文と裕介が顔を上げる。
「寝ちゃったのね」
「あぁ。昨日点滴したから、今日は体がより一層しんどいはずだ。」
涙をこらえたはずの母の瞳から新しい涙が溢れる。

ベンチの横に膝をついて、娘の髪を撫でる母。
その瞳から新しい涙が伝う。