儚く甘い
思わず黙ったみわ。
「来年、絶対に一緒に食べような」
父の命日に必ず食べる、墓地のそばにある神社のお饅頭。
ベンチで眠ってしまったみわを、結局おぶって車に運んだ裕介と隆文。
みわを起こそうとして、起きないみわに、通過して帰宅した。
それを、楽しみにしていたみわが目を覚まして怒りだしたのだ。

「大丈夫」
何も確証はない。
でも今、不安しかない現実の中で、なんでもいいからすがりたい気持ちだったみわには、兄の言葉が何よりも心強い。
隆文はみわに近づき、頭に手を置く。

みわに視線を合わせて言うその言葉にも視線にも、一寸の迷いもない兄。
みわは泣きそうになるのをこらえながら、頷いた。
< 155 / 356 >

この作品をシェア

pagetop