儚く甘い
みわに気づかれないように隆文が母の方に近づき、点滴量を増やしていることやみわの体に起きる副反応をそっと伝える。

母はみわに視線を向けながら、娘の体を蝕む病を恨みながら、身近に感じる別れに、心が折れそうなほど痛んだ。

「母さん」
隆文は泣きそうになる母に、声をかける。
みわに悲しみを悟られたらいけない。
動揺を見せたらいけない。

兄たちも母も、お互いにそう心に誓い、お互いにくじけそうなとき、思いを悟られないように声をかけあっていた。

気付くとソファに座っていたみわが眠っていた。
今まではつらくても我慢できていた睡魔。
その睡魔に負けて眠りにつくみわに、隆文も母も、みわのためにできることがほかにないかと自問自答せずにいられない。
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