a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
 周吾は貴弘の姿が見えなくなったのを確認してから、那津の方へ向き直る。彼女の肩が震えていることに気付くと、背後からそっと肩に触れる。

「大丈夫?」
「ごめんなさい……今はやめて……あいつに見られているかもしれないし……」

 周吾の手を振り払い、那津は彼から離れるように歩き出す。それから砂浜に腰を下ろし、膝を抱えた。

 すると無言のまま、周吾も那津の隣に座る。

「……どこから聞いてたの?」
「ん? いや、そんなには……。二人に気付いて走ってきたから……浮気の証拠って辺りから聞こえたかも」
「そっか……」
「彼氏ってどれくらい付き合ってたの?」
「元カレね……半年くらいかな。会社の同僚で、あっちから告白されて付き合ったの。付き合ってることは内緒にしてたんだけど……最近すれ違いばっかりでなかなか二人で会えなくなって……」
「浮気の証拠でも出てきた?」
「うん……まぁ似たようなものかな。同僚の女の子がSNSで彼氏の存在を匂わせてて、それが貴弘とかぶるのよ。だからあの子が念入りに化粧直しをしているのを見て、これから会うのかもしれないって思って……」
「部屋に行ったんだ?」

 那津は頷くとため息をついた。

「軽蔑した? 私もやってること最低だよね……」
「でも那津さん、本当は何もなければいいと思ってたんじゃない? 全て自分の勘違いであればいいって思ったから、行く前にメールもしたんだよ。でもその気持ちは伝わらなかった」

 確かにその通りかもしれない。ただ信じたかっただけなのに、簡単に裏切られてしまった。
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