ねこのひるねの、ひとりごと
花のひとりごと 2

健気な優しいアネモネ

不意に思い出した。
随分前のことだけど。
花屋の店先で紫の綺麗な花をつけたアネモネのまだ小さい子を見つけた。

例によって色の神秘さに惹かれて購入。

家に帰って地植え。

毎日、眺めては。
「あんた。きれいやねえ。もっと大きくなってね。」
と、声をかけていた。

このアネモネ、実はすんごい頑張り屋さんやった。

ポンポコ、ポンポコ。ポンポコ、ポンポコ。

どんどん花を咲かせて、楽しませてくれた。

冬になると「球根を土からあげとかなアカンな。」で事で。

枯れた葉っぱが有るあたりをスコップで母が掘り返して球根を探した。
しばらく、あちこち掘り返して、手を止めた。

「何にもないわ。」
母がつぶやいた。
「え?球根やろ?」

すると母は掘り返した土を戻しながら。
「きれいね。もっと咲いてねって。言い過ぎたかもね。」
「球根、残ってないの。」

「咲いて、咲いてって言いすぎたかもな。枯れてしまうまで咲いてしもた。」
「枯れたちゅう事?」
「そうやな。何にも残ってないわ。」

花は人の気持ちに敏感やとわたしは思う。
(うん、咲くよ、咲く、咲くから見てね。)
あなたに甘え過ぎたね。

もう少しあなたの事を考えてあげたら。

ね。もう少し自分の事考えて欲しかったよ。

きれいだから、咲いていて欲しかった。

でも、枯れるまで頑張って欲しくなかったよ。

来年もあなたに会いたかったんだから。

もうダメと思ったら咲くの止めてよかったんだよ。
ごめんね。無理させて。
でもきれいなあなたに。
来年も再来年も会いたかったのに。

死なせてごめんね。
一番汚い「人間|《ひと》のエゴだね。

紫のアネモネの花言葉 ”あなたを信じて待つ”

もし、再び何処かで会えたなら。
「大好きだよ。ありがとう。」

それだけを伝えたい。
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