『 最後から、始まる。 』~卒業~ きみと過ごす残り1ヶ月

パチパチパチパチパチ…



拍手で

我に返って

ちょっと寂しくなった



ケーキの上のローソクが

消えたみたいに



「よかった…
帰ろっか…」



「みんな握手とかしてるけど
浅倉はいいの?
ファンレターとかプレゼント的なの
持って来なかったの?」



ぜんぜんそんなの考えてなかった



杉山と一緒に来るってことだけ

考えてた



「うん、いいの」



人混みから離れたら

少し寒かった



「杉山、握手したい」



「やっぱり、して来る?
いいよ、オレ待ってるからしてきなよ」



「違う
杉山と握手したい」



「は?
オレ、そんな有名人とかじゃないけど…」



「杉山と、したいの」



「ヤダ…」



杉山が拒んだ



「なんで…?
握手ぐらい、いいじゃん
最後なんだし…」



キスしてでも

彼女になりたいでも

なくて



握手なんだから

それくらい

いいじゃん



「最後…とか言うなよ
なんか、もぉ浅倉と会えない気するし…

それに…
握手したら、オレ
もぉ浅倉のこと、離せなくなる気する」



え…



「じゃあ、杉山
向こうに行っても
こっちに帰って来たら連絡してよ

そしたら
また前みたいに…しよ…

あ、杉山に
本気の彼女とかできたら
連絡しなくていいからね」



杉山と私

繋がってられるのは

それだけだ



離したくないのは

それだよね?



「なに、それ…

オレさ
浅倉とそーゆー関係になりたいとか
そんなふうに思ってなくて…」



浅倉のくせに

調子にのるなって?



「ごめん…
そーだよね
きっと大学にかわいい子いっぱいいるし
もぉ私としたいとか思わないよね」



杉山にも

選ぶ権利ある



昨日も

しなかったしね



もぉ飽きられた



傷つくな…

今日も寝れないかも



「…したいよ
浅倉としたいよ

初めて浅倉とした日
浅倉が、杉山、離さないで…って…

あの時、オレ
ホントにこの子を離したくないな…って…
そう思ったから…

ずっと離したくないな…って
今でも思ってるよ

卒業式のあと、言ったじゃん
浅倉のこと好きだったって…
向こうに行っても好きだって…

浅倉はオレのことキライって言ったけど…
オレ、かなりショックだった

だから…
浅倉としたいから会いたいわけじゃなくて
浅倉が好きだから会いたい

浅倉が好きだから離れたくない

浅倉が好きだから…したい

さっきも
浅倉が音楽聴いてる横で
ずっと浅倉見てた

あー…浅倉持ってかれる…って
ちょっと妬いたし…

オレよりこの人の方が
これから浅倉に近いんだ…って思ったら
大学なんか行かなくてもいいかな…って
そんなふうに思った」



「ダメだよ、それは…

私、応援してるから…」



「じゃあ、こっちに帰って来たらじゃなくて
向こうに行っても連絡してもいい?

たぶん
毎日するかもしれない

浅倉がオレのこと
好きって言ってくれるまで…」



杉山が滲んで見えた



目が熱くなって

身体に溜まってた何かが

ボロボロ落ちた



学校という箱の中で

クラスという枠の中で

私と杉山は会うことができてた



ただ普通に生活してただけ

日常を送ってただけ



同じ学校の

同じクラスの人



そうじゃなかったら

連絡する理由もなくて



会う理由があるとしたら

カラダの繋がりしかないと思ってた



「杉山…遠くに行っても…
頑張ってね…

会えなくても…

杉山が…

杉山が…好き…

好きだよ…」



滲んで見えてた杉山が

涙で見えなくなった



もぉホントに会えなくなる



もぉすぐ

杉山がいないことが

日常になる



「なんだよ

早すぎる

好きって言ってくれるまで
毎日連絡するって言ったのに…
いきなり言うなよ」



「…あ…ごめん…
じゃあ…やっぱり…好きじゃなかった」



「それも、ダメ

じゃあ、浅倉も連絡してよ
浅倉の声、毎日聴きたい」



涙を押さえた私の手を

杉山が掴んで



代わりに杉山の胸に

私の涙は吸収された



優しくて

広い胸



息をしたら

杉山の匂いがした



「うん…毎日…する…」



私の声は

杉山に聴いてもらうためにあって



私の手は

杉山に繋いでもらいたいと

ずっと待ってた



私の肩は

私の背中は

優しい杉山の手に

いつも包んでほしくて



私の唇が

初めて知ったのは

杉山で…



「浅倉、離れても、好きだよ」



また

触れてくれるのを

待ってる



「杉山…杉山…」



「浅倉、泣くなよ…」



「好き…杉山…

好きだよ…」



杉山も

待っててくれたらいいな…って



背伸びして

私から

触れた



ーーー



「オレも、好きだよ」



杉山の唇は

優しかった



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