かぐわしい夜窓
「わたし、早くあなたのお家に行きたい」

「家に着いたら、どこに出かけるか考えよう」

「え?」

「俺はただの神殿騎士に戻るけど、十年頑張った褒美として、しばらく休みを取ってある」


遠出、したいんでしょう。


「遠い遠い国に行って、俺に、海を紹介させてね」


愛しいひとが微笑んだ。


そのひととのお役目を手放し、隣を手に入れ、名前を知った。

それでもかつての約束を覚えていてくれた、やさしくて穏やかなひと。


わたしに金を選び、花を選び、騎士になることを選んでくれた。

まち針のように、なにもかもが終わるのをただじっと待つしかなかったわたしに、たくさんの慰めと喜びをくれた。


わたし、あなたと遠出がしたい。

かぐわしい夜窓の向こうが淡く明けるのを、一緒に迎えたい。


「わたしに、素敵なものや場所を、たくさん教えてね」

「たくさん一緒に出かけよう。たくさん一緒に見よう」


お誕生日おめでとう、ともう一度落とされたお祝いに、笑って。


ありがとう、とその名を呼んだ。


どこまでも、どこまでも、甘い響きをしていた。




Fin.
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