かぐわしい夜窓
「サシェ」
「うん?」
「十年一緒にいたけど、まだまだわからないことがたくさんあると思うんだ。だから、ひとつずつ教えてほしい」
「うん」
「いままで巫女さまって呼んでた遅れを取り戻せるように、サシェっていっぱい呼ぶから、サシェも俺のこと呼んで。できれば『さん』はなし」
「お、遅れ」
「遅れ」
きっぱり言われた。遅れじゃなくて決まりだと思う。
「サシェ」
「なあに、ザックさ、……ザック」
「お誕生日、おめでとう」
「っ」
おめでとうと、言ってくれるのか。あんなに迷惑をかけたのに。
「ばたばたして、遅くなってごめん」と付け足すものだから、とうとうお腹を抱えて笑ってしまった。
なんて律儀なひとなんだろう。なんて最高の誕生日なんだろう。
「おやすみ、サシェ」
「おやすみ、ザック」
「歌うたいさま」は、ひとりでこもってばかりいた、がらんとした神殿の聖堂を思い起こさせる、寒々しい名前だった。
「巫女さま」も、あたたかったけれど、一番嬉しくはなかった。
「サシェ」は、懐かしくてあたたかい。なにより、嬉しい呼び名だ。
──十五歳から、十年間を一緒に過ごしてきた歌まもりさまは、二十五歳の誕生日、わたしの恋人になった。
あたたかな部屋。花々に彩られた、かぐわしい夜窓。
あなたの手を抱いて眠れることの、しあわせよ。
明日はきっと、目覚めのいい朝が来る。
「うん?」
「十年一緒にいたけど、まだまだわからないことがたくさんあると思うんだ。だから、ひとつずつ教えてほしい」
「うん」
「いままで巫女さまって呼んでた遅れを取り戻せるように、サシェっていっぱい呼ぶから、サシェも俺のこと呼んで。できれば『さん』はなし」
「お、遅れ」
「遅れ」
きっぱり言われた。遅れじゃなくて決まりだと思う。
「サシェ」
「なあに、ザックさ、……ザック」
「お誕生日、おめでとう」
「っ」
おめでとうと、言ってくれるのか。あんなに迷惑をかけたのに。
「ばたばたして、遅くなってごめん」と付け足すものだから、とうとうお腹を抱えて笑ってしまった。
なんて律儀なひとなんだろう。なんて最高の誕生日なんだろう。
「おやすみ、サシェ」
「おやすみ、ザック」
「歌うたいさま」は、ひとりでこもってばかりいた、がらんとした神殿の聖堂を思い起こさせる、寒々しい名前だった。
「巫女さま」も、あたたかったけれど、一番嬉しくはなかった。
「サシェ」は、懐かしくてあたたかい。なにより、嬉しい呼び名だ。
──十五歳から、十年間を一緒に過ごしてきた歌まもりさまは、二十五歳の誕生日、わたしの恋人になった。
あたたかな部屋。花々に彩られた、かぐわしい夜窓。
あなたの手を抱いて眠れることの、しあわせよ。
明日はきっと、目覚めのいい朝が来る。