嘘つくつもりはなかったんです! お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

「さぁ、立てる?」

 手を伸ばしてくれたのは、今私の隣にいるウィルティム様だった。
私はあの時、彼の手を取った時から、私の心を渡してしまっている。


 ――けれど、それを声に出すことは出来ない。残念なことに、私は伯爵令嬢としての立場をしっかり把握できる大人の女性であったのだ





「ウィルティム様。今度の差し入れのリクエストはありますか? 私、お菓子を作るのは得意なんですよ」

 今日はなんとなくクッキーにしたけれど、次はウィルティム様の好きなものを作りたい。
 ついでに話題も変えて、この鬱々とした気持ちを変えたかった。

「俺はまだ、君から信頼を得ていないのかな? うん、そうだね、次はフィナンシェとか、リクエストしようかな」

「フィナンシェ! わかりました。バターの香りがいいですよね、私も好きなので頑張りますね」

 ふふっと笑えば、ウィルティム様もにこっとしてくれる。
 細身であるが長身のウィルティム様は、いつも私を見下ろしている。

 でも、こうして階段で座っていると、段をずらせば視線を同じ高さにできる。

 ふっと日が差してきた。

「あっ、ウィルティム様の瞳、濃紺ですね、不思議。普段は黒に見えるのに」

「それを言うなら、君の瞳だって、普段は藍色なのに、今は空色になっている。近くでみないと、よくわからないけど」

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