嘘つくつもりはなかったんです! お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。
 渡される二つの書面。一つは昨夜、確かに私が署名して血判も押したものだ。そこには見届け人も確かに署名していた。

「これ、あの陽気なおじさんって、騎士団長?」

「あぁ、見えないだろう? あれでも猛者だよ、戦場に行くと顔つきが変わるんだ。昨夜はたまたま近くに座っていたから、お願いしただけだよ」

 それは、お願いと言うより命令では、と思うと同時に、もう一つの書面を見る。それにはミンストン伯爵である父の直筆で、第一王子と娘の私の婚約を許す、とあった。

「これ、ディリスお兄様も知っていらしたの?」

「あ、あぁ、2年前、君を助けた際に意気投合してね。身近な存在だったから、初めから私の正体を明かしていたよ。ディリスには、ゆくゆくは私の側近として働いて欲しいから、ね。で、今回も手伝ってもらったよ」

「お兄様、コロス、」

 なにも、こんな後朝の時に間に合うように書面にしなくても、これでは全く逃げることができない。

「ついでに、王子妃教育のためにこのまま王宮に留まることも出来るけど、どうする?」

「かっ、帰りますっ!」

 とんでもない、このまま王宮にいたら、王子様に食べられてしまう。それはちょっと勘弁して欲しい。

「なんだ、リア、このままもっと、愛を確かめ合いたいのだけど、どうかな?」

 少し困ったように眉をひそめて、おねだりするような目で殿下が私を見つめてくる。

< 93 / 197 >

この作品をシェア

pagetop