これはきっと、恋じゃない。
新学期の初日は、3時間で終了だった。2時間目は色々と諸連絡があって、後半は自己紹介。それからはクラスの委員を決めた。
そして、午後からは翌日に控える入学式の準備がある。担当の先生たちと生徒会は、その準備に駆り出される。もちろん、わたしもだ。
でもその前に、先にお昼を食べることにした。
わたしたちが机をくっつけてお昼ごはんを食べようとしていると、王子くんの席の周りにはどんどん女の子たちが群がり、あっという間に人だかりができあがっていった。
「なんか、しょうがないんだろうけど、気の毒に見えてきた」
「亜子ちゃんみたいに分別のあるファンが多かったらいいのにね」
「いや、私は興味ないだけよ」
意外とドライなんだな。
「でもセレピに詳しかったじゃん」
「私が推してるのは、セレピの直属の先輩のカルキスだから」
出た、カルキス。
正式名称は、たしかカルテットキス。
「どんな感じなんだっけ」
「簡単に言えば、歌がうまくてかっこいい系のダンスグループ」
言いながら、亜子ちゃんがスマホを出して動画を見せてくれる。ダークカラーのスーツを身に纏った4人が、キレキレのダンスでステージを歩き回っている。
正直言って、よくわからない。
かっこいいとは思う。ダンスも上手だし。
でもわたしは、亜子ちゃんみたいに騒いだりできるほどじゃない。
心の底から亜子ちゃんに共感できないのが、少しだけもどかしい。
「……ダンス、かっこいいね」
「まだデビューしてないんだけどね」
「えっ、こんなにうまいのに?」
「そ。色々あるんだよ。飼い殺しだけはやめてほしい」
亜子ちゃんは動画を止めると、スマホを上着のポケットにしまった。