これはきっと、恋じゃない。


「そういえば、千世って推しとかいるの?」
「いないよ、知ってるじゃん」

 いまっていうか、ずっといない。
 いたことがない。

 アイドルも詳しくないし、あんまり興味ない。俳優も詳しくないし、ドラマを見てかっこいいなーとは思うけど、それ以上にならない。今やみんなひとりは推しがいるから、わたしも欲しいと思うことはあるけれど。

「あ、じゃあいいじゃん」
「なにが?」
「王子くん」

 ごはんが気管に入りそうになったのを、慌ててお茶で飲み下す。

「どんな話の流れからそうなった!?」
「今なら古参アピできるよ、デビュー前だもん」
「いやいや……もう遅いでしょ」

 亜子ちゃんやお姉ちゃんみたいに、ほんとに初期から応援しているイメージがある。いくらデビュー前とは言え、こんな時期から推しだして古参アピールは、本気で応援してる子たちに怒られそう。

「おこがましいよ。……たまたま同じクラスになっただけだし」
「真面目だねぇ」
「ミーハーじゃないだけ」

 お弁当を食べながら、ちらりと王子くんの方を見てみる。まだ話しかけてくる女の子たちに丁寧に対応しているけど、時々チラチラと腕時計を見ていた。

 ……なにか用事があるのかな。

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