八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 一番奥の席へ座って、メニューを見る。ケーキ、パフェ、どれも六百円以上する。

「グレープフルーツジュースにします」

「デザートは?」

「なしで大丈夫です」

 午後二時からお得になるアフタヌーンティーセットは、時間的にまだ頼めないらしい。
 髪や服でたくさん使わせちゃったから、これ以上は甘えられない。

 店員さんに声をかけて、琥珀さんが注文しようとしたとき。高校生のバイトらしき男の人が、ぽかんと口を開けた。

「あれ、八城くん。なになに、めずらしく女の子連れて来ちゃって。カノジョ?」

 馴れ馴れしい態度に、知り合いだとすぐ分かった。

 琥珀さんと目が合って、緊張度が増す。

「うん、そうだよ」

 嘘だと分かっていても、はっきり言われると恥ずかしくなる。
 ウソカノだとバレないように、なるべく話さないでおこう。

「えー、うそ? やだやだ! 珀様(はくさま)、うそって言ってよ」

 とつぜん、前の席から大きな声が聞こえてきた。

「私たち、なんのためにここ通ってると思ってるの? 琥珀くんに接客してもらうためなのに!」

 もう一人、制服姿の女子高生がソファーから顔を出す。琥珀さんと同じ、星空学園高等部の制服だ。

 接客って、まさかこのカフェって、琥珀さんのバイト先なの?

 女の人にじろじろと見られて、背中が小さくなっていく。

 琥珀さんに似合うか、見定められているみたいで。本当の彼女じゃないと、勘づかれないかドキドキしている。

「ごめんね。大切にしたい子ができたから、もう君たちと遊べないや」
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