八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 ドキッとするけど、心を落ち着かせながら冷静に。

「べ、べつに、なにも」

 ほんの一瞬触れただけ。
 でも、椿くんに知られたくない。

 ーー椿、好きな子いるよ。もう何年も前から。

 ウソカレだから、他に想ってる人がいるからじゃなくて。もっと違うなにかが、胸の中を飛んでいる。

「……嘘だ」

「えっ、そんなこと……ない」

「碧、すぐ顔に出るから」

 怪しむような口ぶりで、坂を上る。

 赤い屋根の校舎が見えてきて、わたしたちは黙ったまま校門をくぐった。

 正門玄関へ着く前に、椿くんが女の子に呼び止められて、校舎の裏へと歩いていく。

 また告白でもされるのかな。ざわざわと胸が落ち着かない。

「三葉っち!」

 ぼんやり眺めていた後ろ姿が、くっきりと浮かび上がる。

 急に声をかけて来たのは、この前つめよって来たスクールカースト一軍の女子。たしか、穂村(ほむら)さんだ。

「ちょっと来てよ」

 強引に腕を引かれて、別棟(べつとう)の方へ連れて行かれた。

 こんどはなに?
 また、椿くんとのことを聞かれるのかな。

 短いスカートを揺らしながら、くるりとこちらを振り向くと、わたしの体を追い込むように穂村さんが壁に手をつく。

 女の子に、初めて壁ドンされてしまった。

「……あのさ、言っておきたいことあるんだけど」

「な、んでしょう」
< 45 / 160 >

この作品をシェア

pagetop