八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 気の抜けた声を出すと、となりからプッと吹き出す藍くんの声がして。

 わたしが反応するより早く、安斎さんの空を突き抜けるようなセリフが出た。

「三葉碧くんでーす! 女子みたいな顔だけど、なかなかいい奴だろう?」

「そうそう。意外とイケメンですよね〜。乙女心をわかっていると言うか」

「は、恥ずかしいから、やめて」

 二人の説明をさえぎると、女の子が一歩前へ出て、大きく息を吸った。

「三葉……碧くん! これから、藍くんと同じく推させてください!」

「ええ⁉︎」

 あわてふためくわたしの横で、藍くんが必死に笑いをこらえている。なにがそんなにおかしいのよ。

「気に入られてやんの」

 道連れだと言いたげに、からかうような口ぶり。お守りのために、体張って追いかけたのに!

 でも、藍くんもこんな楽しそうに笑うんだと知って、嬉しくなった。

「ちなみに、生写真あるよ?」

「見ていきますか〜? 画像なら、さらに安くしますよ」

 さりげなく勧誘している二人に、わたしはギョッとする。

「はい! ぜひ!」

「こ、こらー! 人で商売するな!」

 冗談だよ〜と、ごまかしていたけど、あわよくば売ろうとしていたに違いない。
 まったく、油断も隙もない人たちだ。

 日が暮れ始めた頃。女の子を帰してから、バスに乗って家へ向かう。
 一番うしろのとなり側で、安斎さんと矢野さんが頭をくっつけて眠っている。

 疲れたのかな。なんだかんだ言って、二人とも全力で協力してくれたから。感謝している。

 寝顔を見ながら一人なごんでいたら、窓側の藍くんがぽつりと。

「てかさ、なんで花?」
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