八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「なんの話?」

 窓の外へ向いていた目が、こっちを見た。

「さっきのハンカチ、碧のじゃねぇだろ」

 ドクン、と心臓が跳ねる。
 とっさのことだったから、意識していなかった。

 たしかに、あのハンカチには花の刺繍がついていた。小さかったから、すぐに親指で隠したのに。

「あきらか女子のだった。誰のなんだよ?」

 藍くんに見られていたなんて、予想外だ。
 なんて言い訳しよう。

 たらりと冷や汗が流れてくる。

「えっと、あれは……お、お」

「お?」

 言いかけて、口を閉じた。お母さんのだと、ごまかそうとしたけど、言えなかった。

「あー、そうか。そういうことか」

 なにが分かったのか、藍くんが独り言のようにつぶやく。

「その、なんだ……人それぞれだし、な。決めつけて、ごめん」

 少し言いづらそうに、口元を両手で隠している。

 もしかして、乙女の趣味があると思われたのかな。
 藍くんがそんな反応を見せるなんて、意外だった。

「みんなには、内緒にしておいてほしいな」

「……おう」

 向けられたこぶしに、こぶしをコツンと合わせる。

 なんだか男同士の約束みたい。

 少しでも藍くんと心が通えたようで、嬉しくなった。
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