魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

世の中はままならない。

◆◆◆


 俺の主人は控えめに言って天使だ。見た目も可愛ければ中身も可愛い。
 アイリ・ラウーヤ男爵令嬢。
 名前からして可愛いだろ?

 ピンク色の腰まである髪の毛はいつも艶やかで、チョコレートブラウンの大きな瞳はキラキラ輝いている。その笑顔といったら、見たものを昇天させてしまうほどのインパクトだ。
 右目の下の泣きぼくろは色っぽく、唇はプルンとしていて、男心を誘う。最近は胸の発達がすさまじくて、目のやり場に困ることが多々ある。
 そんな魅惑的な外見に反して、お嬢様は驕るどころかどちらかというと控えめで、心優しく、俺のような使用人にも分け隔てなく接してくれる。やっぱり天使だ。

「カイル」

 その可憐な声で名前を呼ばれるたびに、頭の中に花が咲く。しっかりしまっておかないと、尻尾を激しく振ってしまいそうになる。
 そう、獣人であるというのに俺はそのアイリ様の側仕えを許されている。

「あなたは私をいやらしい目で見ないから安心できるわ」

 最近、ますます美しくなったアイリ様は男の不躾な目線が気になるようで、嘆くことが増えてきた。
 自室のソファーに座り、俺を隣に招き寄せたアイリ様は、ぽてっと俺の胸に頭をもたれかけ、つぶやいた。
 二人きりのときは、こうして気を許してくださるのだ。

 (可愛い!!! たまらん!!! こんな可愛いなんて卑怯だろ!!!)

 罪作りなアイリ様は、ときどきこうして俺の理性を試すようなことをされる。
 バリバリいやらしい目で見ていることなど気取られないように、クールに装い、うなずく。

「もちろんです。俺でアイリ様の気が少しでも休まればいいのですが」

 俺の表情筋は使わないうちにこわばって、死んでいた。だから、心情を見せないことには自信があった。
 どんなに毎晩ムラムラしていようと、アイリ様を脅かすことをするつもりもないし、アイリ様をお慕いする気持ちは墓場まで持っていくつもりだ。

「すっごく休まってるわ。ありがとう」

 にっこり微笑んで抱きついてくるアイリ様が可愛すぎて辛い。
 
(キューーーート!!! ううう、俺を悶え死にさせるおつもりですかーーーっ!!!)

 天使の微笑みに胸を撃ち抜かれて痛い。心臓発作で死ぬのではないかと毎日思う。幸い、まだ死んでいないが。




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