魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。……私はまた魅了されていたのか?」

 美しいお顔をしかめながら、殿下がおっしゃった。
 
「いえ、今度は操られていたのではないかと」
「操られていただと!?」

 殿下が目をすがめて、聞き咎めた。怖い。
 思わず、カイルの陰に隠れて膝を曲げ礼をとった。
 さすがは王太子殿下。迫力がある。
 エブリア様もそうだけど、高位で美しい方が凄むと怖すぎる。

「はい。恐れながら、殿下はダルシーナの秘法という呪いにかかっていらっしゃったのかもしれません。現に今、護符をお渡ししただけでは治らず、勝手ながら、浄化魔法をかけさせていただきました」
「浄化魔法で治るということは、確かに呪いの類いだな。アイリ嬢、礼を言う」

 聡明な殿下はすぐ事態を把握してくださり、感謝のお言葉までくださった。

「もったいないお言葉です。殿下を狙っ……いえ、この国を狙って暗躍している輩がいるようです。お気をつけください」
「そのようだな。至急、エブリアと相談して対応を考えねば!」
「ぜひ、そうされてください」

 エブリア様のお名前が出て、私は安心して微笑んだ。
 お二人が対策を取っていただければ、もう大丈夫なはず。

「殿下、そろそろ昼食をとらねば、午後の時間に差し支えます」
「あぁ、そうだな」

 いつの間にか、そばに来ていた側近の方が殿下に声をかけられた。
 武骨担当のダンガルド様だわ。
 でも、側近のどなたも私の方を見ようともしなかった。いつもは必要以上に声をかけてくださるのに。
 不審に思うも、王太子殿下と側近の方々は用は終わったとばかりに行ってしまった。

「とりあえずは、これでよかったのよね?」
「完璧です」

 独りごちるとカイルが大きくうなずいてくれる。
 カイルは私に甘い。
 
「私の浄化魔法が効いて、よかったわ」

 考えてみたら、初めて私の魔法が人の役に立ったかも。
 うれしくなって、カイルに抱きついた。
 打ち合わせ通り、今の様子をエブリア様にご報告しに行くことにした。

 



 
 
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