魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「それより、スウェイン様に呪われていそうな方々を集めていただくので、一気に浄化していただけないかしら?」
「申し訳ございません、エブリア様。それはできません」
「できない? どうして? やっぱりあなたもこの件に関わっているの?」

 急に目つきを鋭くしたエブリア様が恐ろしい。
 美人の怒った顔は迫力がありすぎるわ。怖い。
 私は慌てて首を振って、否定した。

「違うんです! 私の浄化魔法は一人ずつしかかけることができなくて、しかも、一日三回が限度なんです……」
「一人ずつ? たったの三回? 聖女なのに?」

 私はますますうなだれた。
 浄化魔法を指導していただいている王宮魔術師の方にも首を傾げられているのだ。

『有事じゃないからいいですが、聖女にしては規模が小さいというかなんというか……。でも、アイリ様は愛らしいので、別にいいでしょう! 私と一緒にじっくり練習していきましょう。手取り足取りお教えします』

 そう言って、手を握ってくる魔術師の方もたいがいおかしくなっている。
 もちろん、私に触れる前にケインが防いでくれているけれど。

(でも、今の状態って、もしかしてひそかに有事じゃない?)

「すみません。役立たずで……」
「いいえ、お一人ずつ浄化していけばいいんだわ。まずは陛下ね。朝のご挨拶のときに浄化できるかしら?」
「物理的にはできる距離ですが、いきなり陛下に浄化とはいえ、魔法をかけて、大丈夫でしょうか?」

 王太子殿下の場合は人目のない場所で魔法をかけられたけど、陛下の朝礼のときは衆目の中だ。下手したら、捕まってしまうのではないかしら?
 エブリア様が小首をかしげて苦笑した。

「大丈夫じゃないわね。スウェイン様に立ち会っていただきましょうか?」
「そうしていただけると助かります」
 
 お一人ずつでも浄化できるなら、治していきたい。
 
「じゃあ、早速、スウェイン様と打ち合わせて、明日にでも浄化を頼むわね」
「かしこまりました」

 昼食のあと、ケーキまでいただいて、エブリア様のサロンを辞した。




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