魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「うちの屋敷は父の仕事柄、人の出入りが多いのですが、ある時から男性に狙われることが多くて、部屋に忍び込まれそうになったこともあったので、カイルが二十四時間護衛をしてくれることになったのです」
「そうなの。魅了魔法はずいぶん昔からたれ流し状態だったのね」
「それが早くわかっていれば……」

 また暗い気持ちになり、うつむくと、反対にエブリア様が明るい声を出した。

「魅了を抑えてもらって、疫病を浄化したら、報奨は思いのままよ。陛下はカイルとの結婚も認めてくれるわ。実際、先代の聖女も護衛騎士と結婚したわ。これからしばらく、オランはいるけど、魅了のせいであまり近寄れないし、ほぼ二人きりの旅になるでしょ? その間に頑張ってみたらどうかしら?」
 
(カイルと結婚!!!)

 ぽっと頬が熱を持つ。
 お父様によくわからない方と結婚させられると思っていた。
 でも、そんな道があるのなら、頑張りたい。
 私はよりいっそう意欲を燃やした。

 そのとき、はっとお父様のおっしゃられていたことを思い出す。

「あの……エブリア様」
「なにかしら?」
「昨日、お父様にお会いしたら、あの……王太子殿下はエブリア様と婚約破棄して、私と結婚するようなことをおっしゃっていて……。あと『聖女の水』もお父様が
売られているのですが……」

 言いにくいことをつっかえながら説明すると、エブリア様はつらそうに目を閉じ、「やっぱりストーリーは戻ろうとするのね……」とよくわからないことをつぶやかれた。
 でも、すぐ目を開けて、いつもの強い意志の宿る瞳で私を見た。

「わかったわ。あなたのお父様のことは調べてみる。貴族たちの混乱の原因のひとつになっていそうだし。なんとかしなきゃね!」

 力強くおっしゃった直後、その瞳が急に揺らぐ。こんな弱気なエブリア様の表情は初めてだ。

「お願い。必ず卒業パーティーまでに戻ってきて。ちょうど一堂に会しているから、そこで浄化をかけると効率がいいわ。浄化されたら、スウェイン様は私と婚約破棄するなんて言わないと思うの」

 願うようにおっしゃるエブリア様が切ない。
 私はエブリア様のお手を取り、しっかりとうなずいた。

「承知いたしました」

 



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