魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
◆◆◆


(バカか、俺は! 自分で自分を追い込んでどうする!!!)

 アイリ様を膝に乗せて、すぐ後悔した。
 芳しい香り、柔らかな体の感触に加えて、顔が近い!
 たまに抱きつかれてはいるが、身長差があるので、ここまで近いことはなかった。
 長いまつげの一本一本までつぶさに見える。
 しかも、この距離でアイリ様が顔をあげて微笑まれた。

(ズッキュ〜〜〜ン! も、萌え死ぬ……)

 しかも、「重くない?」と俺を気づかってくださる。
 天使かな? 天使だな。
 「アイリ様は羽のように軽いです」と答えながら、心底そう思った。
 そうしたら、とびきりの笑顔が返ってきた。

(うぅっ、アイリ様、カイルはもうこの試練に耐えられないかもしれません……)

 かわいいが過ぎるアイリ様に、トキメキが止まらず、このままギュッと抱きしめ、唇を奪いたくなる。

(う〜〜〜、オッサンの靴下。オッサンのパンツ、オッサンの股間……)

 平常心だ、カイル。お前ならできる。アイリ様をお守りするんだ。
 そっと深呼吸を繰り返している間に、アイリ様は俺に全身を預け、寝入ってしまった。

(この信頼感!!! これを裏切るわけにはいかないだろ!!!)

 俺は腕の中の宝物を静かに眺めながら、甘くて苦しくて幸せな時間を過ごした。



 馬車は休憩を一度入れただけで、走り続け、朝方には隣町に着いた。
 そこで停まるかと思ったら、馬車を替えて、さらに先に進むという。

「すみません。私たちがいなくなったとバレる前に、なるべく距離を稼いでおきたくて。エブリア様のためにも」
「わかりました。私は大丈夫です」

 アイリ様は疲れていらっしゃるだろうに、にっこり微笑んで快諾された。

「あ、でも、カイルは大丈夫? 疲れてない?」

 あまり眠れず、隈ができている俺をアイリ様が心配そうに覗き込んだ。

「大丈夫です。馬車に乗っているだけなので」

 疲れているということなら、御者台のオランの方がより疲労の色が見える。それでも、彼は言った。

「それでは、先に進みましょう」



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