魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「カイルのバカッ! 私が好きなのはあなたよ! だから、協力を頼んだのに!」

 な、な、な、な、なんとおっしゃったのですか!?
 めずらしく怒ったお顔に見惚れていて、ちゃんと聞き取れませんでした。
 俺のことが、す、す、す、すきと空耳がしたのですが……。

 動揺して固まっていると、アイリ様が悲しげに目を伏せた。

「やっぱり私の気持ちは迷惑なのね……」
「ち、違います! アイリ様に関することで、俺が迷惑と思うことなどなにもありません! ちゃんと聞き取れなかっただけなんです。もう一度、もう一度、言ってもらえますか?」

 俺が懇願すると、アイリ様はためらいながら、言ってくれた。

「私が好きなのはカイルよ」

 私が好きなのはカイルよ。好きなのはカイルよ。カイルよ。カイルよ……。

 いかん、うれしすぎて、エンドレスリピートしてしまった!
 その言葉を噛み締めていると、アイリ様が不安そうに見ていた。

「すみません。喜びに浸っていました。俺も心からお慕いしています」
「慕うって、従者として?」

 可愛いお顔を曇らせたまま、アイリ様が聞く。
 しまった。この言い方では伝わらないらしい。

「違います。俺はずっとアイリ様が好きで好きで、見るたびにムラムラして、いらやしい目で見てました! すみません!」

 俺が観念して言うと、アイリ様はパッと顔を明るくして「本当? うれしい!」と抱きついてこられた。

(うおおおおーーーっ、ここは天国か!? 俺はいつの間にか死んでしまって、妄想の中にいるんじゃないか!?) 

 そう思ったものの、アイリ様のやわらかな感触も匂いもリアルで、俺の妄想とは思えなかった。
 そもそも妄想にしては恐れおおい。

 そろそろと手をアイリ様の背中にまわして、抱きしめ返す。アイリ様はニコッと笑って、俺の頬を引き寄せ、背伸びした。

 チュッ

 今、唇に触れたのは……?
 魅惑の香を焚きしめた極上のシルクを口に当てたような、やわらかいけどしっかりとした感触。
 しびれて動けない俺に、とどめのようにアイリ様が笑顔でおっしゃった。
 
「それじゃあ、魅了を治す協力してくれるよね?」

(アイリ様、いつの間にそんな蠱惑的な笑みを身につけられたのですかーーー!!!)

 アイリ様の猛烈な色香にあてられ、俺はくらりとめまいがして、しゃがみこんだ。
 やばい。下半身に血が大集合だ。

「カ、カイル、大丈夫?」

 心配そうに俺を覗き込むアイリ様から隠すように顔を手で覆った。
 たぶん、今、俺は真っ赤になっている。ニヤけているかもしれない。

(どうした俺の表情筋!? 頑張れよ!)

 でも、想いがあふれすぎて、抑えるのは無理だった。

 
 
 
 



 
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