魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 放課後に、エブリア様の執事が迎えに来て、近寄ったこともないサロンに案内された。
 私はビビってしまって、カイルの袖を握りしめながら、あとをついていくしかなかった。
 緊張で心臓が破裂しそうにドキドキする。

「俺がついています」

 カイルがささやいてくれて、今度は別の意味で心臓が高鳴った。
 うん、頑張る!

「アイリ様をお連れしました」

 執事がサロンのドアを開け、中に招き入れる。

「失礼いたします。エブリア様」
「よく来てくれたわね」

 学校内とは思えないほど豪奢な内装。その中央にある赤いソファーに座り、足を組んだエブリア様が妖艶に微笑んだ。
 香りのいいお茶が供されて、お花があしらわれた美しいクッキーを勧められる。
 公爵令嬢ともなると、お菓子さえも高級そうね。
 一枚手に取ると、口に入れた。
 そのクッキーは見た目が美しいだけでなく、上品な甘さにサクッとした食感がとても美味しく、緊張が少し緩んだ。
 そのタイミングで爆弾が投げられる。

「スウェイン様にちょっかいをかけているというのはあなたね」
「ッゴホ、ゴホッ」

 直接的な質問に、喉を通ろうとしていたクッキーが詰まって、私はむせた。
 慌てて紅茶で喉を潤し、否定する。

「とんでもございません! 私はなにもしておりません! なるべくお会いしないようにしているぐらいです!」

 きれいな笑みを崩さないエブリア様に向かって、ブンブンと首を横に振る。

「まぁ、それでは、スウェイン様があなたを追いかけているとでも言うの?」
「そんな、恐れ多い!」

 ニコニコとしながら、追及してくるエブリア様がとても怖い。

(やっぱりだよ〜!)

 私は涙目で首を振り続ける。

「私は地味に平和に学校生活を送りたいだけで!」
「ふ〜ん?」
「本当です! 王太子殿下には特別な感情はありませんし、むしろ私が好きなのは……」
「好きなのは?」
「身分差があるから、どうにもならない人で……」

 ガタッとカイルの方から物音がした気がした。
 同時にエブリア様が身を乗り出してこられて、慄いた。

「身分違いの恋? 素敵!」

 食い気味に言われて、目をぱちくりさせると、咳払いしたエブリア様が姿勢を戻した。
 当の本人が真後ろにいるのに、詳しいことは話せず、あいまいに微笑むと、余裕の笑みに戻ったセブリア様は仕切りなおすように、扇子をパチンとたたんだ。

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