華夏の煌き
許仲典の言うとおりにして、宿屋に泊ることにした。
――星羅は夫の明樹を探しに行くために、軍師省に休職願を出す。叶わねば辞職も覚悟の上だった。誰もいい顔をしなかったが、決心の堅い星羅に大軍師、馬秀永は西へ向かうことを許可した。唯一、星羅を煙たがっている柳紅美だけは、喜んでいた。
「退職になっても構いません。また試験を受けますし」
「わーっはっは。最高点でも更新する気か?」
教官の孫公弘が豪快に笑う。
「俺がついて行ってやりたいが」
「おいおい。軍師省から二人も抜けられると困るだろう。ただでさえ少数精鋭なのに」
郭蒼樹の言葉には孫公弘は青ざめる。
「残念だ。しかし一人ではだめだ。誰か、連れていけ。そうだ、許仲典がいいだろう」
「許仲典さん? 馬係の?」
「ああ、そりゃいい。そうしろ」
許仲典の一族は元々、高祖に仕える将軍の家系だった。忠臣だった一族は、国が平和に落ち着くにつれ、自分たちの役割も終わりだと悟り中央から退いていく。気性ものんびりとしており、野心もない許家の過去の栄光を知るものは郭家など、もう一部のみだった。
許仲典の忠義心といざというときの武力、そして馬を知り尽くしている彼は星羅の供にぴったりだ。彼に、星羅の供の話をすると二つ返事で快諾した。許仲典は主君を得たと拱手し、初めて鋭い目を見せた。
都から離れ、小さな町が点在し始めるとなんだか星羅は懐かしい気がした。まばらな木々、舗装がなされてない、でこぼこの轍だらけの道。もう記憶には残っていないが、実の母、胡晶鈴と別れ、朱家の家族と旅した風景に似てるのかもしれないと星羅はあたりを眺めた。
「どうしただ? 子供が心配か?」
「ん? いや、徳樹はかあさまが見てくれているし、心配ない。ちょっと懐かしい気がしただけ」
「そうかそうか。さ、宿が見えてきただ」
「うん」
小さな宿に着くと、許仲典はすぐさま馬を繋ぎ、水をやる。星羅が宿屋の主人に話をつけ終わると、馬たちはすでにゆっくり休んでいた。
「ごめんね。いっぱい走らせて」
今回の旅には馬の優々は連れてこなかった。郭家から一日で千里を駆けるという名馬、汗血馬を2頭借りている。それでも途中で馬を変えねばならないだろう。
「馬は役に立って喜んでいるだよ」
にこやかな許仲典に星羅は気が安らぐ。