華夏の煌き
「ありがとう。仲典さんがいなかったら馬を乗りつぶしてしまっていたかもしれない」
「んー。馬は優しいからなあ。星羅さんが走れと言えば倒れるまで走ってしまうかもな」

 馬の優々は倒れて泡を吹くまで、星羅の言うとおりに走るのだろうかと思うと胸が痛んだ。

「まあまあ。おらたちも飯食って寝るべ」
「だね」

 はやる心を抑えて星羅は食事をし寝床についた。駐屯地まではほぼ一本道なので迷うことはない。華夏国の中央を横断する道は、国境沿いに比べ、治安もよく盗賊もおらず安全だ。しかし飢饉の影響が出ているので、宿屋の食事は粗末で少なかった。

「仲典さん。私のも良かったら」

 大きな体格の許仲典に、星羅は自分の椀を差し出す。

「いらねえいらねえ。星羅さんこそ、ちゃんと食べないといけないぞ」
「あんまり腹も減らないのだよ」
「だめだだめだ。ちゃんと食っておかねば。おらはこう見えて10日間くらい水だけで平気なんだぞ?」
「え? 10日間水だけ?」
「んだ。ご先祖様もそうだったらしい。だけんど、食べるときは象のように食べるんだって」
「へえ。象のように。食いだめできるなんて駱駝みたいだ」
「まあ、象も駱駝もみたことがねえけどな。わははっ」
「食べられるときにはちゃんと食べておかねばならないということね」
「んだ」

 迫る飢饉に国に仕えず、夫を探す旅に出ることに罪悪感を持たなくもない。星羅は高祖にあこがれ、軍師を目指したのに自分がとても身勝手だと思えてしまう。
 暗い表情をする星羅に、許仲典は良く気づき「どうしただ?」と聞いてくる。邪気のない彼の問いに星羅はついつい自分の気持ちを話すようになっている。

「そりゃあ、仕事の代わりはいっぱいあるけんど、旦那さんの代わりはないど」
「だよね」

 思い悩むことを、明るく肯定してくれる許仲典に星羅はいつの間にか心をすっかり許していた。許仲典もこんなに親しみを持ち、敬意を払われたことはなかった。先祖が高祖の忠臣であったことで、許家に敬意をはらわれることはあるが、馬の世話係である彼自身に対してではない。許仲典は星羅が危機に見舞われたなら命に代えても守る覚悟を持っている。

88 捜索

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