華夏の煌き
ブルルと身震いし優々が顔を上げたので星羅は出発する。しばらく走ると、歩く人がまばらに見え、同時に宿場町の門が見えた。胸元から身分証の札を出し、馬から降りて門番に見せる。
「軍師様。どうぞ」
見習いではない星羅は、もう軍師と呼ばれる。面映ゆい気分だが頭を下げ通る。そして手が空いている兵士に、女の旅人が昨日か今日やってきていないか尋ねる。食料が足りていないであろう、痩せた兵士は虚ろな目で記憶をたどっている。
「え、と。確か今朝早くそのような女人が入ってきました。でもお一人ではなかったような」
「一人ではなかった? 連れがいたのかしら。どこへ行ったかわかる?」
「うーん。行先までは。でもここを出ていないので町の中だとは思います」
空腹でしっかりしていない兵士に、これ以上質問するのも気の毒で辞めた。現在、元気に旅をするものなどいないので、胡晶鈴がこの町に来たことは確かだろう。小さな町なのでとりあえず宿屋に向かう。
「母は一人ではないのかしら」
連れがいるかもしれないという話を思い出しながら、宿屋に入る。旅人のいない静かな宿場町は、宿屋の前で呼び込みをする者はいなかった。
「ご主人」
食堂でぼんやり座っている、宿屋の主人らしく男に声を掛ける。かつてはふっくら喜色満面だったろう男は青白く頬こけ、腹だけが裕福さの名残を残している。
「お泊りですか? 食事は粥くらいしかありませんが」
「いや、泊りではない。あの、今、泊り客はいるか?」
「へえ。一組だけ」
「一組?」
「ご夫婦だと思いますが」
「夫婦……」
晶鈴が男連れで泊まっているのか、それとも違う者なのか。思わず考えて止まっていると、主人が「おや、息子さんでしたか」と男装の星羅をみて合点がいった顔をする。星羅もその言葉で、泊り客は晶鈴だとわかった。
「今、部屋にいるだろうか」
「いえ、さっき町を一周してくるとお二人で出かけましたよ」
「町を一周……。どのくらいの時間がかかるだろうか」
「小さな町ですし、店も今閉まっているばかりで。すぐに戻ると思いますよ」
「では、ここで待たせてくれ」
「ええ、どうぞ。ただあいにく食事が……」
「気にしないでください。ああ、水だけ頂けたら」
「ええ、ええ。ああ、酒なら出せます」
「いや、今は水にしておこう」
「軍師様。どうぞ」
見習いではない星羅は、もう軍師と呼ばれる。面映ゆい気分だが頭を下げ通る。そして手が空いている兵士に、女の旅人が昨日か今日やってきていないか尋ねる。食料が足りていないであろう、痩せた兵士は虚ろな目で記憶をたどっている。
「え、と。確か今朝早くそのような女人が入ってきました。でもお一人ではなかったような」
「一人ではなかった? 連れがいたのかしら。どこへ行ったかわかる?」
「うーん。行先までは。でもここを出ていないので町の中だとは思います」
空腹でしっかりしていない兵士に、これ以上質問するのも気の毒で辞めた。現在、元気に旅をするものなどいないので、胡晶鈴がこの町に来たことは確かだろう。小さな町なのでとりあえず宿屋に向かう。
「母は一人ではないのかしら」
連れがいるかもしれないという話を思い出しながら、宿屋に入る。旅人のいない静かな宿場町は、宿屋の前で呼び込みをする者はいなかった。
「ご主人」
食堂でぼんやり座っている、宿屋の主人らしく男に声を掛ける。かつてはふっくら喜色満面だったろう男は青白く頬こけ、腹だけが裕福さの名残を残している。
「お泊りですか? 食事は粥くらいしかありませんが」
「いや、泊りではない。あの、今、泊り客はいるか?」
「へえ。一組だけ」
「一組?」
「ご夫婦だと思いますが」
「夫婦……」
晶鈴が男連れで泊まっているのか、それとも違う者なのか。思わず考えて止まっていると、主人が「おや、息子さんでしたか」と男装の星羅をみて合点がいった顔をする。星羅もその言葉で、泊り客は晶鈴だとわかった。
「今、部屋にいるだろうか」
「いえ、さっき町を一周してくるとお二人で出かけましたよ」
「町を一周……。どのくらいの時間がかかるだろうか」
「小さな町ですし、店も今閉まっているばかりで。すぐに戻ると思いますよ」
「では、ここで待たせてくれ」
「ええ、どうぞ。ただあいにく食事が……」
「気にしないでください。ああ、水だけ頂けたら」
「ええ、ええ。ああ、酒なら出せます」
「いや、今は水にしておこう」