華夏の煌き
 星羅は椅子に腰かけちびりちびり水を飲み、携帯食の干した硬い面包(パン)をかじる。しばらく頬杖を突き、国難に対する策に対して思いを巡らしていると、馬の優々の嘶きが聞こえた。

「ん? 優々?」

 入口のほうに目をやると頭からローブをかぶった二人組が立っている。ガタっと席を立ち星羅は「母上、ですか?」と震える声で尋ねた。
 背の低いほうが、高いほうを見上げると、その背の高い人物は頷いて階段を上っていった。背の低い人物がゆっくりと星羅のほうに近づいてくる。星羅は頭が真っ白になってその近づいてくる人物を見つめた。星羅の目の前にやってきたその人物はゆっくりとローブを脱いだ。

「あっ……」

 目の前には、自分にそっくりな、しかし親にはとても見えない若々しい少女のような胡晶鈴の顔があった。

「おかけなさいな」
「は、はい」

 晶鈴に席に着くように言われ、星羅は座る。

「大きくなったのね」
「は、母上……」

 母親を目の前にして星羅はまた頭が真っ白になった。晶鈴が宿屋の主人の声を掛け酒を頼む。

「ほら、あなたは飲めるのよね」
「ええ」

 晶鈴に酒を注がれ、星羅はぎこちなく飲んだ。

「京湖はあなたをとても愛して立派に育ててくれたのね」

 育ての母、朱京湖の名前を聞き星羅はリラックスする。

「京湖かあさまがどうなっているのか心配です」
「大丈夫よ。今はもう彰浩さんとまた一緒に暮らしているわ」
「とうさまと? ほんとですか? それなら良かった」

 酒が入り、京湖のことを話すと星羅は落ち着いて、晶鈴に質問を始める。今までどんな経緯で華夏国に戻ったのか。どうして昨日、母と名乗ってくれなかったのか。星羅の実の父である曹隆明には会わないのかと。そして連れの者は誰なのか。
 晶鈴は優しく頷き口を開いた。

105 胡晶鈴の足跡
 朱京湖と間違われて、胡晶鈴は西国へと連れてこられた。人違いだとは言わず、京湖ではないとばれるまで晶鈴は黙っている。晶鈴をさらった男たちは、民族の違う晶鈴の顔さえ見ようとはせず、西国の衣装だけで判断し、確認をしなかった。彼らは人さらいが専門なのか、さらった相手と顔を合わせるということをしないようだ。女子供をさらうときに罪悪感が出るのだろうか。それともさらうことが重要であって、さらった人間には全く興味がないのかは分からない。

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