華夏の煌き
 陸貴晶は父親の陸慶明に似てしっかりとした体格を持ち、母親の春衣ににて利発そうな瞳をしている。今はまだ助手という身分だが、外科の腕前が良いらしく、将来有望らしい。幼いころは身体が弱かったが、義理の母、絹枝の育て方が良かったのか健やかそのもので、素直な好青年に育っている。

 馬に乗り、ちらりと隣で同じく馬に乗っている蒼樹をちらりと見る。

「なんだ?」

 些細なそぶりに蒼樹はすぐに気づく。

「あ、いえ、わたしたちも年をとったなあって」
「二人でいるとわからないが、子どもの成長を見るとそう思うかもしれないな」

 王太子となった徳樹も、ゆうに10歳を超えていた。朝議では王の曹隆明のそばに控え、群臣の意見を真剣に聞いている。幼くとも立派な姿に、星羅は母親として胸を打たれるよりも、誠意を込めて仕えようと思うのだった。

「紅美の子供の一番上はもう兵士見習いだそうだ」
「許家は家族で一つの隊が出来そうね」
「まったくだな」

 多くの子を持つ紅美は、夫の許仲典をはじめ、子供たちに軍略と実技を自ら教えているようだ。もともと有能な彼女は教育者としても才覚があったようで、子どもたちの中からきっと軍師も輩出するだろう。

「何代も後になると郭家ではなく許家が軍師家系になりそうだ」
「それはまた面白そうね」

 しばらくは平坦で安全な旅路に星羅と蒼樹は穏やかに馬を進めていった。


 覧山国との国境が一番屈強な兵士が置かれている。何百年も大きな戦争はなかったものの、好戦的な覧山国の民族はよく象を走らせ華夏国に挑発めいたことを行っていた。
 覧山国は山岳地帯が多く、深い緑に覆われている。険しくはないが狭く薄暗い道が多かった。今は乾季なので雨が降らず涼しいが、雨季に訪れれば、暑さと湿気にやられるだろう。一年のうちでこの国に訪れる時期はかなり限定される。

 山を越え拓けたところに鋭くとがった黄金の建物が多く見えた。おそらく王宮だろう。覧山国の兵士の一人が気づいたようで急ぎ中に入っていった。おおよその到着を知らせていたので、出迎えの準備がなされていたらしく派手な一団が笛と弦楽器をもって整列している。

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