華夏の煌き
「さて難しい話はこれくらいにして宴の席を用意してある。どうぞ楽しんでいかれよ」

 宴会ではムアン王の王妃マハが慎み深くそばに控えている。肌の色は華夏国民と同じようで、顔立ちは西国人のように彫が深い。若く美しいマハは、緊張しているのか硬い表情で笑んでいる。そっとマハがムアンに耳打ちすると笑って彼は頷き、星羅に声を掛けた。

「王妃があなたは女人なのか男なのかと」
「あ、ええ、女人です」

 軍師省に入ってから、そもそも着飾ることに関心がなかった星羅はすっかり男装が板につき、髪飾り一つ、紅一つさしていない。蒼樹が隣でこっそり笑っている。

「マハには不思議なのですよ。女人が着飾らないことが」
「王妃さまのようにお美しければ、わたしも軍師などにならずにもっとその、飾ることに興味がわいたかもしれませんね」
「はははっ。星羅殿は着飾らなくとも十分お美しいですよ」

 ムアンのお世辞だろうが、王妃のマハがその言葉にぴくっと反応したように見えた。
 しばらく音楽や舞を楽しみ、この国独特の青い果実の料理などを食す。この果実は交易の品の一つになればよいと星羅は考える。覧山国は山深く森の恵みが多く果実が豊富だ。日持ちするために干したものも多いようだ。また竹などで編んだ精巧な籠などは険しい山道で荷物を運ぶのに便利が良い。

 ムアンは華夏国から持ってきた陶磁器に非常に感銘を受けたようだ。この国にももちろん陶器はあるが軟陶で焼き締まりもあまく精度が低い。陶磁器製品よりも、木や竹製品が日常的に使われている。
 今回の国際交流を永続させるべく、覧山国から華夏国へ陶磁器の技術を学ぶものを研修生として派遣することにした。星羅と蒼樹、ムアンと数人のお付きの者で高台に上がる。覧山国の険しさと自然の豊かさが見える場所だった。

「これは落ちたら一たまりもないな」

 覧山国にとっての高台は、華夏国にとっては険しい崖に匹敵する。星羅もそっと覗き込み下のほうに見える細い川に緊張する。

「この国は険しさと、こうして後ろに引けばもう死が待っているという状況で生きてきたのです」
「背水の陣が常に隣りあわせでは、強いはずですね」

 納得する星羅にムアンは優しく笑む。

「まあ、これからはもう少し穏やかさも欲しいところです」

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