華夏の煌き
 遠目でもわかる関所が見えてきた。行きかう人はまばらだが、商人が多そうだ。荷車に色々積んでいる人たちが多かった。空っぽの荷台を積んだロバと一緒に関所に向かう。小さな町なのだろう。門も町を取り囲む壁もそんなに高くはない。この高さを見ると周囲に危険な獣も部族もいないことがわかる。そもそも国家が統一され、周辺の部族たちもほぼ従属国となっているので危険なのは、人よりも自然の獣だった。獣もこちらがテリトリーを侵すことさえなければ牙をむくこともない。

 通行手形を若い兵士に見せると「へえ!」と声をあげ、隣の恐らく彼より少し立場の上の者から「問題がないなら黙って通せ!」と叱られた。

「はっ! 通ってよろしい」

 姿勢を正し兵士は晶鈴を通した。通行手形には『国家元占師 胡晶鈴』と書かれている。引退者としての身分表記だが、初めて見た若い兵士は珍しくて思わず声をあげてしまったようだ。胸元にしまって晶鈴は町の中に入った。都と違ってこじんまりとした様子だが、明るく活気があり見たことのない果物もあるようだ。色々味見しながらふらふらと宿を探す。市場の端っこにやってくると一人の男が荷車のまえで難しい顔をしているのが見えた。

「おじさん、どうしたの?」

 男がよく自分に相談してきていた張秘書監に似ていたのでつい声をかけてしまった。

「ん? ああ、待ち合わせをしてるんだが相手が来なくてなあ。半日も待っているんだ」

 晶鈴を追い返すことなく男はため息をついて答える。

「あら、半日も。それは大変」

 袖口から晶鈴は流雲石の入った小袋をとりだし、つやつやした石を一つ選んでとりだした。刻み込まれた文字を眺めると晶鈴の頭の中にぼんやりと光景が浮かぶ。

「相手の方は反対の門で待っていると思うわよ」
「ええ? 反対? ちょ、ちょっとここでこの荷物見ててくれないか?」
「いいわ」

 晶鈴の言葉を聞いて男は慌てて走っていった。

「ふふふ。やっぱり張秘書監に似てる」

 あまり深く考えないが、善良で気の良い張秘書監は晶鈴が去ることを心から悲しんでくれた。図書を管理するものしか目にすることができない地図をこっそり模写して晶鈴にくれたのだ。
 さっき買った豆をポリポリかじっていると、汗だくになった男が戻ってきた。

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