華夏の煌き
「娘さんの言うとおりだった! これから取引に行くが、どうだろう後でお礼をさせてくれないか」
「いいのよ。お礼なんて」
「まあ、まあそういわずに。とりあえずそこに宿をとっているから、後で落ち合おう」

 髪を振り乱したまま、男は荷車を引いてまた急いで行ってしまった。

「まあ宿には泊まるんだけど」

 ロバの明々を引いて宿屋に向かうことにした。

 宿屋のまえに立っている若い男に部屋はあるか尋ねると、今はにぎわうシーズンではないらしく色々な部屋があると教えてくれた。
路銀に十分余裕があるが、贅沢をする気もないので個室で小さい静かな部屋を頼んだ。ロバを預けると若い男が案内してくれた。宿屋は二階建てで古い建物だが掃除が行き届き、柱などは磨かれて艶がある。階段も埃がたまることなくきれいだ。
 こじんまりした寝台と小さな机だけがある部屋に通される。中からは木を扉に差し込んで閉めることができるが、外からのカギはないので貴重品を残して出かけないように言われた。

「ちょっと疲れたかな」

 寝台にごろりと横たわる。平和なこの時代、旅は過酷なものではなくなり、女一人旅も珍しくなかった。今朝、別れた慶明と春衣には明日起きてももう会えないのだと思うと少し感傷的になってくる。初めて一人きりになったのだ。
 のんきだった朝と夕暮れの今ではなんだか心持が変わってきてしまった。

「これが、寂しいという気持ちかしら……」

 感傷に浸りそうなときに、一回の食堂から美味そうな肉のスープのにおいが漂ってきた。

「おなか減ってきちゃったな」

 自分の気持ちに浸る前に空腹を覚え、寝台から起き上がると食事をしに一回へと降りていった。
 
16 進路変更
 食堂に降りていくと、さっきの商人の男が座っていた、晶鈴に気づき手を振ってくる。

「ここだ、ここ」

 張秘書監にやはり似ているが更に気さくなのは職業柄だろうか。晶鈴は木の椅子を引き男の対面に腰掛ける。

「さっきは助かった。ばっちりだったよ」
「それは良かったわ」
「で、礼をしたいんだが相場の3倍でどうだろう」
「相場?」
「ん? 少ないか。じゃあ5倍」

 何の話か分からないまま進めていく男の話を遮り、相場のことを尋ねる。

「あんた占い師だろう?」
「ええ、一応……」

 国家専属の占い師だったことは伏せて晶鈴はあいまいに答える。

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