華夏の煌き
「ふむ。では晶鈴が誰かにこっそり会いに行くことはなかったか?」
「実は朝早く出かけられることがありまして……」
「どこの誰と会っていた?」
「それは、わかりませぬ。後をつけて顔を見に行くわけにもいかず……」
「そうか……。誰かわからぬか……」
「あ、そうだ。御髪をすいて差し上げると、時々、晶鈴様のものではない綺麗な絹糸がついてました」
「絹糸……。色は覚えているか?」
「えーっと、黄緑色のようだったかしら?」
「黄緑色……」

 身に着けられる衣装の色は身分によってほぼ決まっている。晶鈴の絶対父親の名を明かさないという態度と、糸の色で慶明はもしや相手は王族ではと怪しんだ。若い王族の男は太子、王子など数名いる。慶明はひそかに父親を探り当てようと心に決めていた。 

15 宿場町
 行く当てはないがとりあえず故郷に戻ってみようと晶鈴は、針路を北西に取った。背中を日光が押しているようで温かい。石で舗装された道は都から離れるといつの間にか硬い土の道になっている。まばらだった木々も増え風がしっとりしてきた。

「都は乾燥していたわね」

 故郷の景色はどうだったか思い出せなかった。幼かった晶鈴には家畜に囲まれていた記憶しか残っていなかった。ロバの鼻面をなでながら「そうだ。名前をつけないと」と考え始める。

「えーっと何にしようかな。慶明がくれたロバだし――」

 慶明のことを考えながら隆明を思い出す。

「そうだ。明々(ミンミン)にするわ。よろしくね、明々」

 ロバの目をのぞき込むと明々は理解したのか「ホヒィ」と小さく鳴いた。

 のんびり歩き、空腹を覚えたので荷台の上に乗って焼餅をかじった。ロバの明々も茂った草も顔を埋めて食べているようだ。

「もう少ししたら、宿場町があるから今日はそこで泊まろうかな」

 北西の村まで歩きだとおよそ一ヵ月かかるだろう。馬だともっと早いがロバなので歩きと変わらない。急ぐことも目的もないので何も考えずに道を進む。
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