華夏の煌き
 商人の男は酒を飲むとますます気さくになって、自分のことを話し始めた。彼は薬草を扱っている商人で、全国を回って取引しているらしい。妻がいて一緒に全国を行脚していたが、子供が生まれたので今は単身で商売をしている。

「もう少し金をためたら、店を構えてじっとするつもりさ」
「そうね。子供も大きくなるし、自分も年を取ってくるしね」

 将来の自分のことを想像しながら、男の構想を聞く。どっちにしろ子が生まれたら晶鈴は身動きは取れなくなるだろう。

「いろんなとろにったことがあるのよね。どこか住みやすいいい町をしってる?」
「そうだなあ」

 東西南北それぞれの大きな町の特徴を教えてくれた。

「でもやっぱり都が一番かな。人も物も多いが荒くれたものが少ないねえ」
「都、ね……」

 男はこれから都に向かう予定だ。

「あんたはやっぱり遊学中かね?」
「まあ、そんなところ」

 太極府に見出され、そこで過ごしてきた晶鈴は知識は豊富だが実際の経験はなかった。張秘書監をはじめ、陸慶明などから相談を受け鑑定してきたので、世の中の雑事も多少は知っている。王族のこと国家のことにも知識がある。
 歩き方を知っているが、歩くのは初めてなのだと改めて思う。

「都の医局に行くこともあるのかしら?」
「ああ、今回はとっておきの異国の薬草を手に入れたので行ってくるよ」

 庶民の薬局では扱えないような珍しいものを、都の医局は調査のために買い取っている。

「もし医局で陸慶明という人に会ったら、晶鈴は元気にしていると伝えてくれるかしら」
「ああ、まかしてくれ」

 気のいい男としばらく食事を楽しみ別れた。晶鈴は急ぐ旅ではないが、男は門が開き次第、出発するということだ。部屋に戻り晶鈴は地図を開いた。
 中央の都から少し北西に進んでいる。故郷に帰ったところでどうだろうかと思案する。流雲石をとりだしてみる。

「占ってみようか……」

 東西南北の方位それぞれに卦を出してみる。北には水、南には人、東には火、西には母と出た。

「確か南西の町が温かくて食べ物も豊富だって言ってたかしら」

 さっきの会話を思い出し、自分の出した卦を眺め晶鈴は進路を南西に取ることにした。

「人と母……」

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