華夏の煌き
「あちこち渡り歩くけど鑑定料の相場はだいたいこんなもんだ」

 男は二本の指を立てた。

「へえ。銅貨2枚なのね」

 銅貨一枚で露店で麺を一杯食べられる。二枚あれば酒も飲めるだろう。確かにさっきの簡単な占いだと、礼に食事をおごられるくらい受け取ってもよいかもしれない。じゃあ受け取ろうかと思っていると男は眉をしかめる。

「銅貨じゃない。銀貨だよ」
「ええ?」

 一桁上がる料金に晶鈴は驚きの声をあげた。張秘書監は、いつもいいというのに金でできた貝貨を置いていった。彼の身分と収入であれば大した額ではないかもしれないが、庶民にとって銀貨2枚というのは結構な額だと思う。おそらく一ヵ月暮らせる額ではないだろうか。
「あんた銅貨2枚じゃどうやっていくのさ。毎日客がいるわけじゃないだろう? ああ、でもその腕前だと毎日客がいるかもしれんなあ」

 勝手に話を進め納得する男に、晶鈴もこのくらいの精度の占いであれば庶民には十分通用するのだと悟った。後で色々な町の占い師を訪ねるのも面白かもと思った。

「まあ、でもちゃんと銀貨で払うよ。取引はうまくいったし、儲かったからさ」
「あら、いいのに」
「いや。払うもの渋ると後で損するんだ。これは商人の鉄則だよ」
「なるほどね。確かに自分から出ていくものは良いものも悪いものも7倍になって返ってくるものね」

 晶鈴も男の前途を思い、素直に銀貨を受け取った。

「ついでに飯も食おう。ごちそうさせてくれ」
「そんなにしてもらわなくてもいいのよ? 困ってるわけじゃないし」
「まあまあ。これは単に一人より二人のほうが楽しいだろうからってことだ。それともあんたは男より食うのかい?」
「そんなことはないけど」
「じゃあ、いい。さあ酒でも飲もう」
「あ、酒は飲めないのよ」
「ん? そうか。じゃ俺だけ」

 平坦な腹をさすって晶鈴は酒を辞退する。そもそも酒を飲んだことはなかったし、飲みたいと思ったことはなかった。子もいることだし、酒には一生縁がないかもしれない。
 食堂もだんだんと客が増えにぎわっている。改めて見回すと雑多だが明るく活気に満ちていると感じる。静かだった太極府とは対照的だ。しかしこの生気に満ちた混沌が嫌いではなかった。

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