華夏の煌き
 不安な気持ちで小屋の周りをうろつき、ふと焼き窯に目が向く。山土で作られた小高い窯は肌色で触るとざらついていてほんのり暖かかった。窯の入り口に目をやると、足が出ているのが見えた。どうやら男は窯の中で眠ったらしい。
 ほっと胸をなでおろし、窯の中を覗く。薄暗い空間を目を凝らしてみているとぼんやり中が見えた。

「結構広いのね」

 男を起こさないようにそっと入ってみた。暖かく安心感のある空間だ。じっとうずくまっている自分がまるで胎児になって母親の腹の中で永年の安眠を得ている錯覚を起こす。じっと何もせず、話さすこともなく過ごす時間は穏やかで安らいだ。

「退屈じゃないですか?」

 声を掛けられてハッと声のほうを向くと男が体を起こしていた。

「不思議ね。窯の中って落ち着くのね」
「ええ。窯は母の胎内ともいわれてます。作品を生み出す場所でもありますから」
「そうなのね」
「今、粥でも作りますから」

 男が窯から出たので京湖も後に続いた。

 食事がすむと男は陶器の傷の有無や割れなどを調べる。京湖も何か手伝いたいと申し出ると男は嬉しそうに、陶器のざらつきを砥石でそっととってほしいと頼まれた。陶器はすべて日用雑器で大きさが色々な碗が多かった。壷なども作るが、今回は遠出をするつもりだったので、重なる碗を数多く作ったということだった。

「ラージハニ様は中華国に行ったことはありますか?」
「いいえ。国から出たことはないの。ところで様はつけないでわたしはもう乞食同然なのよ」
「では、これから中華国に行くことですし、京湖とお呼びします」
「京湖?」
「あなたの名前を漢風にしてみました。都の湖という名前です」
「綺麗な名前ね。あなたの漢名は?」
「彰浩。朱彰浩です」
「彰浩。京湖」

 新しい名前を得て嬉しくて何度かつぶやいた。

「夫婦だと国を出やすいので、名を聞かれたら、朱京湖と答えてください」
「わかったわ。でもその言葉遣いはやめて。夫らしくないわ」

 笑う京湖に彰浩は「あ、そうですね」とまた答えた。

「お互いに練習が必要ね」

 しばらく時間がかかったが言葉の変化とともに二人のかかわりも変化していった。

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