華夏の煌き
 辺鄙な町の国境は検問が緩く、彰浩と京湖はすんなり国を出ることができた。荷車にめい一杯積んだ陶器を見て兵士は「稼いで来いよ」と声援とともに見送ってくれる。顔の汚れた京湖をちらっと見て「もう少し楽をさせてやれよ」といたわる兵士もいる。恥ずかしいと思いながらも、京湖はまだまだこの国の人たちの温かい気持ちに触れることができ嬉しかった。
 国を出た時、京湖は振り返って石造りの大きな関所をみる。壁面には巨大な仏が何体かほられている。

「お守りください」

 仏に祈り、新たに中華国の土を踏みしめた。荷車は重いのでゆっくりゆっくりと進んでいく。押している京湖に彰浩が「少しあの木陰で休憩しよう」と休ませてくれた。

「足手まといよね……」
「そんなことはない。助かってるよ。もう少しすると最初の町に着くから、そこで今夜は休もう」

 休んだのちまた黙々と荷車を押して歩く。このような肉体労働をしたことがなかったが、京湖は楽しかった。小さな町に着くと彰浩はまず宿を探した。宿屋の主人は夫婦だということで、当然のように一部屋用意する。

「俺は床で寝るから、京湖が寝台を使うと良い」
「そんな。疲れてるだろうから寝台で寝て」
「平気だ。窯の中でも寝られるくらいだし」

 夫婦といっても形式なので彰浩は京湖に遠慮する。

「彰浩。わたしたち本当の夫婦にはなれないかしら」

 背を向ける彰浩に京湖はそっと頬を寄せる。後ろからすっと細い腕をまわし、彰浩のたくましい胸を撫でる。

「だめだ。そういうつもりじゃない」
「わたしは、あの、そういうつもりだわ。きっと会った時からそうしたいと思ってた」
「京湖……」

 大臣の娘である京湖は、幼いころから性愛について学んでいて、夫と決めた相手には情欲を隠さない。すっと彰浩に向かい合わせとなり、唇を突き出し口づけをねだる。彼女の情熱的でセクシーな誘惑をはねつけることのできる男はいないだろう。
 濡れたような紅い唇に彰浩は自分の唇を重ねた。

「彰浩、寝台に行きましょう」

 京湖は彼の手を取り、微笑みながら寝台へと腰掛ける。並んで座り京湖は彼の肩から腕を何度も撫でる。

「陶工はとても逞しいのね」
「あ、ああ。力仕事も多いから」

 緊張を隠せない彰浩に、京湖は大胆に胸の中に飛び込む。

「妻にしてほしいわ……」

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