華夏の煌き
「この帯が男の人だとこの腰骨にくるようね」
「ほんと!」
星羅も京湖もくびれた一番細いウエストに帯を巻いている。女性ならではの美しいS字ラインが出ていた。いつの間にかすっかり京湖の背丈を越して青年となった京樹は、紺色の着物だが直線的なラインを描く。
星羅と京湖は明るい高い声をあげながら着物を直し始める。その様子をあまり見ることなく京樹は「じゃあ僕は寝るから」と部屋を出る。
「ありがとう。京にい」
「がんばって」
いそいそと京樹は自分の部屋に戻った。簡素な部屋は寝台くらいしかなく眠るためだけの場所だった。いつもは眠る前に太極府で見ていた星の配置を眼に浮かべるが、今日は違った。
今、結い上げてやった星羅の絹のような髪の手触りと、娘らしくなってきた身体の曲線を思い描く。年頃の娘なのに化粧っ気もなく、さらには男装して軍師見習いになってしまった妹。倒錯めいた色香を感じ、京樹は慌てて布団をかぶって目を閉じ眠ろうと努力した。
軍師見習いとして今回試験に受かったものは、星羅を含め3人だった。都の中で一番基礎の高い建物が、政が行われる朝廷でもあり王の住まいでもある『銅雀台』である。
その隣の、元々高祖の居城だった『金虎台』があり、そこに軍師省が入っている。遠くから見てもすぐにわかる高さなので、初めて訪れる星羅も一人で無事たどり着くことができた。
門番に、合格した際受け取った『軍師見習い』の札を見せる。若い門番は星羅をすこし不思議そうに見てから、馬をつなぐ厩舎と、軍師見習いの向かう学徒室を教えられる。
「ありがとう」
練習した低めの声で星羅は頭を下げ、馬をつなぎにいった。『金虎台』は軍師省以外にも、軍事、財政、土木などを扱う省がいくつかあり身分の高いものは馬車や輿でやってくるが、見習いなどは歩きや馬だった。
「結構いっぱいね」
馬を引いて歩いているが、空きがない。何十頭もの馬の尻を眺めて歩くことになる。
「ふう……」
きょろきょろしていると「おい」と頭上から低い声がかかった。見上げたが逆光でよく見えず目を細めていると、その男は右斜め前を指さした。
「そこにつなぐといい」
「あ、か、かたじけない」
星羅は男っぽく返事をして頭を下げた。頭をあげるともう男は馬と立ち去った。