華夏の煌き
 各々話してみると、どうやらみんな感性も感覚も目的も違うようだった。はっきり軍師になりたいのは星羅だけのようだが、やはり兵法の話になると面白い。会話に熱中していく自分がわかった。盛り上がりそうなところに「こほん」と咳払いする声が聞こえた。
 3人はハッとして咳払いのほうに振り向くと細い、高いというよりも長い柳の木のような老人が立っていた。雪のような銀白髪と白いひげ、目を患っているのか黒目も半分白く濁っている。幽鬼のような雰囲気に星羅は緊張した。

「わしは馬秀永じゃ」

 名前を聞いた瞬間に彼が軍師省のトップであるとわかり、3人は背筋を伸ばし頭を床につけ拝礼する。

「よい。面を上げよ」

 枯れ木のような雰囲気なのに、声は太く低く良く通る。

「えーっとそっちから、郭蒼樹、徐忠正、朱星、雷じゃな」

 指さしで確認したあと馬秀永はここでの役割を話始める。見習いは3年間のうちに何かしら献策をしなければならない。それは、政治経済、庶民の生活、土木、教育どんなジャンルのことでも構わなかった。何も出せなければ、もう一年猶予があるがそれを過ぎるとここを出ていくしかなかった。他には過去の政策の整頓、兵法書の写しなど図書館のような仕事もあった。

「わからんことがあるかの?」

 3人とも献策について考え始めたので他の質問など思いつかなかった。

「じゃあ、わしと会うのはこれで最後の者もおるじゃろう。あとはそこの孫公弘に聞くがよい。三年後を楽しみにしておるぞ」

 すーっと音もなく出ていったあと、ガタイの良い将軍のような男が入ってきた。癖が強い髪なのか、まとめ切れておらず、虎のようなもじゃもじゃとした髭を生やしている。

「教官の孫公弘だ。なにかあったらわしに言え。とくかく策を考えるのがお前たちの役割だからな」

 そういうなり、ごろりと横になった。

「えーっと教官。今日は何をすればいいですか?」

 徐忠正がそっと手を上げて質問する。ごろりと向きを変えた孫公弘は「うーん。そうだなあ」と唸る。

「この中で寮に入るものはいるか?」
「おれがはいります。家は都から遠いので」
「そうか。部屋は整ってるのか?」
「そうですねえ。そんなに持ち物もないので」
「じゃ、お前んとこに行って歓迎会するか」
「え!?」
「いくぞいくぞ」

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