カモミール
「何弾こうかなあ」

  彼はポロンポロンとアドリブでギターを弾き始めた。アドリブと地続きで曲が始まる。ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、イーグルスなど、往年の洋楽ヒットソングを時々鼻歌まじりで弾く彼が楽しそうで好きだ。洋楽はあまり知らなかったのだが、彼のギターを聞くようになって、何の曲を弾いているのだろうと興味を抱き、少しだけ詳しくなった。

「それ何の曲ですか?」

 初めて聞く曲はだいたいタイトルを聞いてあとで調べている。

「ミスタービッグのトゥ・ビー・ウィズ・ユー。知らない?」

「初めて聞きました」

「失恋した女の子を慰める歌だよ」

 彼は一瞬顔を上げ、私を見てにやりと笑った。

「私はもう吹っ切れましたよ」

「歌の中の主人公はね、その女の子のことが好きなんだ。『ただ君の隣にいたい』ってね」

 また彼と目が合い、ドキッとしてしまった。厳密には、サングラス越しなので本当に目が合ったかどうかは定かではないが。彼の言っていることはただの曲解説で、そこに含蓄なんてあるはずないと分かっているのに、どうしたというのだろう。

 陽気な温かい日差しが差し込む昼下がり。彼の優しいギターの音色にほだされ、胸の高鳴りを抑えることができなかった。
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