カモミール
 翌朝、店のドアに「臨時休業」の札をぶら下げ、私たちはタクシーに乗って真崎さんの娘さんのお墓があるという霊園に向かった。途中、花屋で供花を買い、カモミールから十数分ほどで到着した。

 霊園は木々に囲まれ、きれいに区画されていた。今日は天気もよく、ジョギングしたり犬の散歩をしたりしている人をちらほら見かける。霊園をしばらく歩いていくと「真崎家」と書かれたお墓が見えてきた。真崎さんは桶の水を墓石にかけ、私はお墓に花を供えた。線香に火をつけてお墓の前でふたり並んで手を合わせる。

「早川美晴です。いつも真崎さんにはお世話になってます」と、娘さんに挨拶をした。

「俺の方こそ、お世話になってます」

 彼はふふっと笑って私に続いて言った。

「生きてれば20歳か。成人式だな」

 彼は立ち上がって空を見上げ、感慨深そうにつぶやいた。

「娘さんのお名前、なんていうんですか?」

咲笑花(さえか)。『咲く笑う花』で咲笑花」

「咲笑花ちゃん…」

「名前の通り、よく笑う子だったよ」

 私は昨日見た写真の咲笑花ちゃんを思い出した。花のように笑顔を咲かせる女の子。咲笑花ちゃんを亡くさなければ、奥さんと離婚もせず、喫茶店を開くこともなく、きっと幸せな家庭を築いていたに違いない。そして私たちは出会うこともなかっただろう。

「帰ろうか」

 私たちは再びタクシーに乗り込み、家路についた。タクシーの中で、車窓から景色を眺める彼がぽつりぽつりと話し始めた。
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