カタストロフィ

まるでおぞましい物を見たかのような反応だった。

(どう考えても、ダニエルは男女が最終的に行き着く行為を知っているとしか思えないわ。そして、それに対して吐くほどの拒絶反応を出した)

まさかとは思う。
しかし、ユーニスの頭にはある一つの可能性がこびりついて離れなかった。

(ダニエルは女家庭教師(ガヴァネス)に虐待されていた。暴力だけだと思っていたけれど、もしかしたら性的な虐待も……)

その時にふと思い出したのは、両親が亡くなってすぐの頃のことだった。
両親は周囲の反対を押し切って結婚したため、ユーニスは頼れる親族がいなかった。
葬儀から一ヶ月が過ぎた頃、ユーニスの前に母の妹を名乗る女が現れた。
子供たちの面倒を見ることを条件に引き取られたその家で、ユーニスは見たことも会ったこともなかった伯父に目をつけられた。

最初は卑猥な冗談を言われるだけだったのが、いつしか通りすがりに触られたり、しつこく口説かれるようになった。
誰にも助けを求められなかったユーニスは、貞操こそ守り通したものの、伯父をたぶらかした代償として伯母に背中を焼きごてで焼かれた。
結局、必死で守った処女は女学校に入れてもらうために別の親戚に捧げてしまったが、自分で決断したからか不思議と後悔は無い。

(守ってくれる大人がいなかったのは一緒でも、私には戦う術があった。処女をなくしたのだって、あくまで取引だった。でもダニエルは?彼の歳を考えれば、一方的に搾取されたとしか思えない)

二人は同じようでいて、微妙に違う境遇である。
どこまで彼に寄り添えるか、ユーニスには見当もつかなかった。
結局自分はダニエルに対して何がしたいのかわからない。

つまるところ、ユーニスが悩んでいる理由はその一つに尽きる。


< 23 / 106 >

この作品をシェア

pagetop