カタストロフィ


寝返りを打ちたくても体が動かない。
眠りから醒めつつあったユーニスは、ぼんやりとした頭で再び体を動かそうとした。
だが全身が柔らかくもしなやかな暖かさに包まれており、やはりびくともしない。

熱は唇にも伝わった。
やわやわと啄むように何度もなぞられ、その気持ちよさについ唇を開くと、今度はよりはっきりとした熱が落ちてくる。

体の奥底に眠る官能を引き出すかの如く舌先をねっとりと弄ばれて、ユーニスはつい声をあげた。
そして、あられもない声を出したと自覚したその瞬間、完全に眠気が吹き飛んだ。


この屋敷の一体誰が、狼藉を働こうとしているのか。
なぜ自分が狙われたのか。
目まぐるしく考えはじめたその時、窓から月明かりが差し込み、ユーニスの体を組み敷いている男の容貌がはっきりとした。


淡い空色の瞳は煮え滾るような欲望に染まり、ユーニスを見下ろしていた。
暗闇の中でもはっきりとわかる鮮烈な金髪、ビロードの如き白い肌、しなやかで細身だが男性らしい体。
今現在、ユーニスがこの世でもっとも会いたくない人物、ダニエル・シェフィールドその人が、なぜかそこに居た。


「ダニエル!?ここで何をして……!」


疑問の声は次から次へと降り掛かるキスで相殺された。
初めて交わしたキスを覚えていたのか、ダニエルはユーニスが好む場所を全て当ててくる。
まったく頭が働かなくなり、せめてもの抵抗として自分からは舌を動かそうとせずにいたが、不意に冷気に晒されてユーニスは体を震わせた。

いつの間にか夜着の前ボタンが全て外されており、やや大ぶりなユーニスの乳房は完全にあらわになっていた。
片手で両手首を拘束し、もう片方の手で右の乳房を柔らかく揉みしだき、ダニエルはうっそりと微笑んだ。

「もう僕は待たないことにした。君を好きになってから、何年経ったと思う?僕は必死に君に愛を語った。君が望むペースで関係を進めていこうとした。だが君が拒絶するなら仕方ない。ユーニス、君の意思なんか関係ない。僕は今から君を抱いて、自分のものにする」

それは、恐怖の宣告のはずであった。
しかしユーニスの胸中に生まれたのは、言葉にし難い甘い疼きだけだった。


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