カタストロフィ
第5章

至福の聖夜 ⭐︎



「父上からの許可も降りたし、僕たちが結婚するに辺り問題となることなんて何もないんだ。だから……」

「はっきり妊娠したってわかるまでは辞めないわ。それにメアリーの社交界デビューだけは見届けたいの」

「義姉として見届けたら良い。ユーニス、君はもうすぐ僕の妻になるんだから」

「貴方のことは愛しているわ。でもそれはそれ、これはこれよ。仕事は真面目にするし責任感を持つ、これを徹底したからこそ私のキャリアは保たれてきたのよ。貴方が好きになったのはそういう私なんだから、ここは当然折れてくれるわよね?」


クリスマスも近づいてきたある日の昼下がり、長年の望みを叶えてユーニスを手に入れたダニエルは困ったようにため息をついていた。
一日でも早く入籍する為に仕事を辞めて欲しいと切り出すも、メアリーの社交界デビューを見届けるまでは仕事を辞めないとユーニスに突っぱねられたのだ。

いくら言葉を尽くしても頑として自分の意見を曲げないユーニスに、ダニエルは白旗を振るしか無かった。


「わかった、参ったよ、降参だ!こうなったらメアリーの社交界デビューを早めるしか無いな。一ヶ月前倒しにして、5月にしてもらおう」

「そんな無茶な!」

「まだ招待状も出していないんだろう?今からなら余裕で間に合うさ。いっそ社交界デビュー第一号でも良いかもしれないな。5月の1日にデビューする令嬢がいないか調べるよ」


そう言うや否やスタスタと部屋を出て行ったダニエルの背中を見送り、ユーニスは一人苦笑した。
半ば強引に結ばれた夜から半月の間に、ダニエルは手際良くユーニスを囲った。
いつの間にかシェフィールド伯爵から結婚の許可を貰い、教会を通じての結婚予定通告も済ませて、婚約指輪まで用意していたのである。

あれよあれよという間にダニエルの婚約者の座に収まったユーニスへの風当たりは、彼女が想像していたほどのものではなかった。
ダニエルがもう自立した大人の男性であることと彼が三男であることから、メアリーもシェフィールド伯爵夫人も二人の結婚を受け入れられたのだ。


あの夜を境に、左手の薬指は重くなった。
ユーニスの誕生石であるオパールと小粒のダイヤモンドが品良く組み合わせられた婚約指輪はいつ見ても眩い。
起き抜けに指輪を嵌められ、プロポーズされたことは一生忘れないだろう。

「幸せだわ」

思わず呟いたその一言は、やや時間を空けてから心に浸透してきた。
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